アロガント級の戯言。

思ったことを書くだけ。

RTAプレイヤーとして「結果」を出した。『サクラ大戦RTAの終幕』

 近年、RTA in Japan が大きく取り上げられ、「ゲームを早くクリアする遊び方」の「存在」が広く知られるところになった。当該のイベントで記憶に新しいであろう、『リングフィットアドベンチャー』の実況にプロのアナウンサーを呼び、本物のプロ実況シリーズに仕上げてきたことには素直に感嘆させられた。また、自身も見に行った現地観覧のあった会には、会場に取り付けたミラーボールを使った演出を取り入れた作品もあった。

 ストリーミング配信にて、上記のように視聴者を楽しませようと様々な仕込みを用意し、RTA をエンタメ的に仕上げるのは定番の流れになってきた。それは動画の方でもそうで、画一的なテンプレートに乗ったものが溢れてはいるものの、編集によって RTA を面白く見せようとする動きは既知のものとなっている。

 その内容に大きく好き嫌いはあるが、界隈の流れが「こう」なってしまったのならもう止めることは出来ない。「タイマーをつければ RTA になる」という参入のしやすさ・考えを否定するわけではないが、エンタメの下に早さを求めるのではなく、あくまで第一はスピードであってほしい。というのが私見だ。

 だから今ここに、10年の RTA 配信の中で最も力を注いできた『サクラ大戦』シリーズを中心に、自身がやれることをやったということ。RTA プレイヤーとしてはコントローラーを手放すことを書き記す。

 

○序章:なぜ速さが第一と言い続ける?

 RTA の原義だからでしょ、ではなく、自分の出自が TAS 動画であることと、それと RTA を比較したときに「好きになった RTA の姿」が「速さを追い求める姿勢」だったからです。

 今でこそ何一つ Tool-Assisted の動画に関係する活動はありませんが、2012年~2014年の間はニコ生の RTA 活動と並行して Tool-Assisted Speedrun および Superplay の動画も作っていました。Tool-Assisted Speedrun は常に「理論上最速」を目指して制作されるものであり、その文化に身を置いてきた私としては、自身の考えたやり方で「最速」を目指すことは当たり前のことでした。

 そんな TAS と今回挙げている RTA との出会いはそれほど離れていません。前者の「理論上最速」を目指すことに大いに興味を惹かれていたのと同時に、そんな「理論上最速」を提供する TAS 動画の記録に、人間が、自身による理論の構築や考えを反映させ、そして精緻な操作・テクニックを以て、更に時の運さえ味方につけ理論上最速に肉薄してゆく点に面白さを感じていました。すごく大雑把に言えば、速さをひたすらに求めていく姿勢...自分が RTA の面白さと考えているのはその部分で、その結果を以て既プレイヤーを感嘆させたり驚きや感心・関心を与えられるように、サクラ大戦RTA をこうして極めてきたのです。

 出会いの時期が、こういった考えを持っているひとつの大きな要因かもしれません。2009年12月開催の『第2回ロト天空ドラゴンクエストRTA駅伝対決』を見ていた記憶は確実であるため、その前あたりからドラクエRTA の視聴はしています。
 今の感覚で言うと信じられないかもしれませんが、第4回大会のDQ6の1位である8時間43分は当時の一発通しなら眼を見張るようなタイムですし、DQ4DQ5が当たり前に6時間7時間を切っている時代ではありませんでした。そんな時代に RTA を好きになったから、様々な可能性...既プレイヤーへの驚きなどが多数あった時代RTA を好きになったから...だからこそ、来る日も来る日も速さを目指すその姿勢・在り方に惹かれたのかもしれませんね。

 ※なおこの序論は上述の通り「私見であり、『「タイマーをつければ RTA になる」という参入のしやすさ・考えを否定するわけではない』とも述べているように、他の方・特定の個人・何らかの団体のやり方に NO を示しているわけではありません。言ってしまえばただのポリシーです。

 

○一章:敗れ去った世界記録争い

 2012年、ストリーミング配信を開始した私はルイージマンション』という作品で一時は当時の2つの主要カテゴリで世界記録を持ったトッププレイヤーでした。しかし、奇しくも同年頃に頭角を現してきた海外プレイヤーとの更新合戦に完全敗北。当時は海外向けに『ルイージマンション』、国内向けには『サクラ大戦』の RTA と棲み分けて放送をしていたのですが、海外ではシリーズ作が発売されておらず、また走者もいなかった後者に集中するため前者の放送を終了しました。(よりクリティカルな理由は別走者からの嫌がらせだが)

 前者は記録のために何度も何度もリセットを繰り返すもの(※註:当時はテレサの効率的な吸い方はスピートランのコミュニティに知られておらず、非常に運の要素が強かった)、後者は事前にどれだけの調査と準備及びチャート構築が出来るかというもの。自身の考える RTA 像...

人間が、自身による理論の構築や考えを反映させ、そして精緻な操作・テクニックを以て、更に時の運さえ味方につけ理論上最速に肉薄してゆく点に面白さを感じていました。すごく大雑把に言えば、速さをひたすらに求めていく姿勢...自分が RTA の面白さと考えているのはその部分で、その結果を以て既プレイヤーを感嘆させたり驚きや感心・関心を与えられるよう

これを考えたときに、徐々に注目の集まり始めていた『ルイージマンション』における最速を求める姿勢は件の新世界王者に託すことに。彼はどんどん記録を伸ばしコミュニティの第一人者へ、一方で私はもう、その世界で最速争いをできるようなプレイヤーではなくなっていました。そのため、特に『初代』から『3』の人気作で一切先駆者のいなかった『サクラ大戦』を選び、それらでシリーズを知る方たちに「結果」を届けようと決めました。どちらも前述・上掲の引用と考えは乖離していないのは読み取ってもらえるはずです。

 

○二章:「RTA売名祭り!」と既プレイヤーの反応

 2012年7月29日にニコニコ生放送で『第6回RTA売名祭り!』というイベントが開催されます。このイベントは簡単に言うと『自分の好きなゲームでRTAしようぜ!』というもので、その走りに解説をつける等は無く、当該の大会の運営陣がガヤという形のコメンタリーを入れつつ流れていくゆるい感じの「持ち RTA を披露する場」でした。
自身のニコ生デビューは2012年2月4日の『サクラ大戦4』の RTA ですが、前述の『ルイージマンション』の世界記録争いのためにそっちは留守にしており、この「RTA売名祭り!」の場は2月10日以来の『サクラ大戦4』の RTA になりました。

 この企画で走った『サクラ大戦4』は当時 or 当該企画のユーザー層に刺さったのか、初めて私の放送を見たであろう多くの方からも好評を得ました。事実、この作品の RTA の記録は peercast となん実Vにあったのみで、ニコ生で配信していたのは後にも先にも自分のみであり、珍しさもあったのかもしれません。しかし、この企画での好評ぶりから私は本格的に『サクラ大戦』シリーズの RTA プレイヤーとして歩み始めました。

 それはひとえに、今までほとんど見られなかったこのシリーズの RTA において、どんな「結果」が出てくるのかの期待もあったと思っています。対応ハードがサターンやドリキャスPS2PSP であることから TAS 動画も無い状態で、「最も早く『サクラ大戦』をクリアする様を見られる場所」としての矜持を持って、「結果」を以て、『サクラ大戦』ユーザーへ新しい世界を、驚きを届けたいと思うようになりました。

 同年から翌年にかけて、『初代』『2』『3』『4』『血潮』『Ⅴ』というシリーズの主要作品の RTA を制覇。特に既プレイヤーならその長さを嫌というほど感じている『2』は2回めの走りで10時間切りを達成、当時よく放送にいらしてくれており、ブログのプロフィール画像にも使っている絵を描いてくださったサクラ大戦』をやりこんでいたユーザーさんから「2の10時間切りは本当に驚いた」とのコメントを頂きました。

 自分の追い求めた「結果」既プレイヤーに刺さったことを確かに感じた瞬間でした。

 

○三章:だから僕は1日に2周した ~『サクラ大戦RTA』の特徴~

 2014年5月31日、『第12回RTA売名祭り!』がニコ生で開催され、私はシリーズ作品での出場では2作目となる初代『サクラ大戦』で参加しました。前回の RTA は2013年12月1日で、今回は自己ベスト更新間違いなしと思われるチャート改定を以て臨みました。全ては、この場で新しい記録を打ち立てるため...。自身を知らない方であっても、シリーズを知っている方のために、この企画を通して『サクラ大戦』の RTA を届けるために...。そう強く考えていました。

 サクラ大戦』シリーズの RTA には大きな特徴があります。敵と戦うパートでは、味方の動きに合わせて敵も同じ動きをするという「行動再現」が可能である、という点です。特に『初代』と『2』は『ファイアーエムブレム』『スーパーロボット大戦』などの SRPG における戦闘でお馴染みの、マップ上のマスを動く戦闘(「ヘックス戦闘」というらしい)で、一部の敵キャラを除き完全な「行動再現」が可能です。RTA 本番では、事前に準備をしてきた「行動再現」の手順をなぞるのが基本で、走るまでにどれだけ良い調査をして、敵の行動の再現を組むかが重要です。「行動再現」であり「状況再現」ではないため、乱数によって立ち振る舞いを変えなければいけない点までしっかり考慮に入れなければいけませんが、この「行動再現」をどれほどの精度で組めるかは『サクラ大戦』シリーズの RTA において最も大きな要素と言っても過言ではありません。これは ARMS と呼ばれるマップ上を自由に動けるタイプの戦闘になった『3』以降の作品でもほぼ変わりません。

 だからこそ私は、本シリーズの RTA を、自身が時間をかけて敵味方をどう動かせば良いかを調べてきた研究発表の場と位置づけました。RTA 本番は、自らの調査結果を皆さんに披露し、その「結果」を楽しみにしてもらうもの。そのスタンスを『サクラ大戦』に挑む際のポリシーとして貫いてきました。

 ポケモンRTA がわかる方は通ずるものを感じるかもしれません。どこでどのトレーナーを倒すことになるから、どこでどの技を使っておけばよいか、どれくらいのレベルがあればよいか。あとはどこで買い物や回復をすませるか...などを事前に準備するかと思います。それと似たような感じです。技が急所に当たったり、確率で麻痺や毒を食らったり、が無いぶんこちらの方がより想定通りに走りやすいかもしれません。

 この RTA にはそういう気持ちで挑んできたからこそ、2014年5月31日、「第12回RTA売名祭り!」で走った後すぐにもう1周したのです。そう、祭りの方では調査不足による「行動再現」崩壊とコマンドミス、そして戦闘の乱数にも調査不足が祟って散々な結果に。そのままで終えるのは、自身のポリシーが許さない...そう感じたからこそ、すぐ2周めに入りました。が、そっちもそっちで一番大事な戦闘でコマンドミスを犯し満足な研究発表にはならず、結局一週間後の2014年6月7日まで、その回の研究成果のお披露目は持ち越しになってしまいました。

 

○四章:研究の終わり

 契機は2016年末。当時既に主要作品を制覇していたものの、『Ⅴ』のみは peercast の配信者の方が出した記録に劣っていました。この理由を考えたとき、「『Ⅴ』は任意で「連携攻撃」を使えるから、イベントを全て無くしても行けるのでは?とチャートの改定案を思いつき、数年ぶりに『サクラ大戦』シリーズの RTA チャートをゼロから見直すことに。2017年1月28日、ついにその記録を上回り、主要全作品の最速記録保持者と【他に現役走者はいないものの】名乗れるようになりました。

 ここで生まれた「イベントを全て無くす」という考え方は他作品にも大きな革命をもたらし、『初代』は4時間切り『2』は8時間切り『3』は6時間切りと、既存の記録を過去...いや、大過去にするような目覚ましい「結果」をもたらしました。前述の、「『2』で10時間を切るのは」と見応えを感じてくれた方が今この記録を見てくださっていたら、どう思ってくださるのだろうか。そんな記録たちが生まれました。

 しかし、「イベントを全て無くす」ということは、戦闘パートの「行動再現」がタイムを左右するほとんどの要因となるわけで、「自身の考え」という枠の中では「これより良い再現は思いつかないな...」と、研究の終わりを迎えることとなってしまいました。こればかりは残念ながら、「自身の考え」の外をゆくブレイクスルーを期待するほかありません。こちらとしても、シリーズの RTA を始めて10年が経ち、自身を取り巻く状況も変わる中でもう一回「『2』の十一話の、ミカサ甲板での防衛戦の再現を組み直せ」と言われたら、「勘弁してくれ、すみれさんルートなら今回ので最適化しきったから」と返すでしょう。

 『初代』は今回、速さのために長年選んできたヒロインを捨てましたし、『2』も『3』も考えうる中では、初回の通しの当初から最適なヒロインを選択していたのではないかと、2021年に見直して改めて感じております。「自身の考え」の中では、理論上最速の選択だと思っています。研究は終わってしまいましたが、それに恥じないであろう、知るひとが見れば必ず感嘆したり驚いたり、興味を惹くであろう「結果」を出すことは叶ったと考えています。

 元来、理論上最速を目指す TAS 動画というものがあって、それと同列に TAS 動画の記録に迫っていくような理論・技術構築、プレイング、時の運...それらが詰め込まれた RTA に惹かれた自分としては、ここまでのチャート構築によって、自分が好きだった RTA の姿、そしてその頃は大きい要素だった「結果」を、誰一人としてやろうとしてこなかった作品群の RTA プレイヤーとして提供できたと確信しています。

 

○終章:世の移り変わり、時代の孤児

 この数年、残念ながら「結果」だけでは世間は見向きもしない時代になりました。特定の構図やソフトウェアの使用、華美な編集というエンタメ性が特に動画方面の RTA に流れ込みました。また、メジャーなタイトルでは人口の拡大によるプレイング(≒チャート)のある程度の収束や、タイムの頭打ちなども見られるようになってきたと考えています。「この頭打ちが、お前が好きだった RTA の姿じゃないのか?」と言われたら間違いなく「そうだ」と答える。しかし、それが増えてきたからこそ...敵わないものが最初からあるからこその別のやり方...エンタメ性を以て「魅せる」世の中に変わりつつあるのではと思っています。

 2011年6月の『第8回ロト天空ドラゴンクエストRTA駅伝対決』は「インド駅伝」と称されたほど、とある走者によるインドな演出が大受けしました。当時、大きなストリーミング配信の大会でそこまで徹底した演出というのが新鮮だったのもあり、多くの方の記憶に残るものとなって楽しめたのではないのでしょうか。

 しかし現在だと、ある種そういう演出が前提となっている場合が多いのでは...特定の誰かや何か、集団や大会のやり方を否定しているのではなく(※重要)...速さを求めることがエンタメ性の増大より下になってしまっているのではと個人的には考えています。だからこそ、「結果」だけでは見られない時代と思うのです。
 例えば『サクラ大戦』旧シリーズの RTA 動画は自分が上げているもの以外存在しません。そこに、流行りの華美な演出を引っさげてサクラ大戦3』をRTA12時間でクリアしました!』という動画が上がったらどうでしょうか。流行り物の編集が入った RTA 動画・懐かしさ・12時間・動画としての前例の無さ...などから大きく伸びるのではないでしょうか。ここに、その半分以下でクリアした結果が存在しているのにも関わらず。

 

 自身が注目されない嫉妬から言っているのではない。自身が焦がれた RTA の姿・昔、隆盛を見せた方向の RTA とそれは違うから、世の中が変わってしまったんだなと言っている。

 

 例に挙げた『サクラ大戦3』を12時間でクリア、は、作品をやりこんだユーザーなら多くのひとが「RTA でもそんなにかかるのか」より「俺とあんま変わんなくない?」となるような記録だ。自身の当該作品初回の RTA は2周め要素である戦闘のカットを使わず、連射機も無しで黒髪の貴公子を取得して9時間でクリアしている。今で見たら相当遅いタイムだ。2回めは連射機を導入し、戦闘カットや各種最適化を行い7時間14分だった。このくらいになるときっと、その「結果」に惹かれるユーザーが現れ始めるだろう。つまり、その「結果」を以て興味を持ってくれないのであれば、それは私にとって負け。

人間が、自身による理論の構築や考えを反映させ、そして精緻な操作・テクニックを以て、更に時の運さえ味方につけ理論上最速に肉薄してゆく点に面白さを感じていました。すごく大雑把に言えば、速さをひたすらに求めていく姿勢...自分が RTA の面白さと考えているのはその部分

そう考えて、誰一人やってこなかった RTA を究めた私は、

その結果を以て既プレイヤーを感嘆させたり驚きや感心・関心を与えられる

ことをポリシーに『サクラ大戦』シリーズに向き合ってきた。こうして究めきった最後の原動力は、「未来、誰かがこれを見つけたときに驚いてほしい」。ただそれだけを願ってのことだった。私のことなんか 1mm も知らなくたっていい、ただ、『えっ!『サクラ大戦3』を6時間かけずにクリアしたってマジ!?」のように、その「結果」に興味を持ってほしい。そこを見て、その早解きの中身を期待して視聴をしてもらいたい。それだけなのだ。完成品を見て楽しんでもらえればそれでいい。

 

 だから、自分の考えうる範囲で研究し尽くしたと。あくまで「結果」にこだわる自分としては、『サクラ大戦』シリーズを知った方に対して示しのつく「結果」を出し切ることができたと。そう考えるからこそ、コントローラーを置くのです。2021年のレポートには確実に書いていますが、どの作品においても「行動再現」は、私の頭で考えられる、スピードに繋がりそうなものを試してのものです。考えって、外にはなかなか及ばないものですよね。自分としてはやりきったし、「結果」だって満足。界隈の流れとのズレに苦しむようなら、もう、ここで終わりにします。

 

 一時、本作を完全に捨てていた時期はありつつ、初配信から10年の長きに渡り、本当にありがとうございました。これをもって、私の恒常的な RTA 配信は終わりにします。現れるとしたら、「RTA売名祭り!」のような私に合ったイベントや、「結果」を求められる機会や企画が訪れたら...くらいです。並走する or してくれるものもほぼ無いですからね。
 未来、ここのブログのレポートを見つけた方がいて、『サクラ大戦』シリーズの RTA をやってみたくなったとき、私がまだネットに生きていれば、ぜひお会いしましょう。

 それでは、誠に勝手ながら、しばらくの間休演させていただきます。ご声援、ありがとうございました。

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